日本代表、ブラジル撃破の真実──3-2逆転劇を生んだ戦術とチームの進化

試合全体の流れと戦術概要

前半：ブラジルの圧力に苦しんだ日本

試合の序盤、日本代表は完全にブラジルのペースに巻き込まれていました。ブラジルは前線から激しいプレスを仕掛け、特に中盤の鎌田に対して2人がかりで圧力をかけました。日本のビルドアップは高い位置で奪われ、前半20分までに2失点。相手のスピードと個人技に守備ラインが下がりすぎたこともあり、コンパクトさを欠いてしまいました。ブラジルの中盤にスペースを与え、セカンドボールを拾われ続けたことが失点の原因です。日本はその時間帯、ボールを前に運ぶことができず、守勢一方の展開でした。

中盤の支配を取り戻す転換点

しかし、30分を過ぎたあたりから、戦術的修正が見え始めます。鎌田の位置をやや下げ、佐野海舟と南野を中盤に近づけることで三角形を作り、ポゼッションを安定させました。これにより、ブラジルのプレスを一枚剥がす形が増え、徐々にリズムを取り戻していきます。後半に向けた布石がここで打たれたのです。

森保ジャパンの“リアクション戦術”

森保一監督は、前半の苦戦を受けて「リアクション戦術」に切り替えました。つまり、相手のプレスを引き出してから空いたスペースを突くという戦略です。後半はこの切り替えが見事に機能し、ブラジルの守備ラインの背後を突く場面が一気に増えました。

後半に見せた守備の修正

後半開始時点で、守備ブロックのライン間が明らかに狭まりました。鎌田が最終ラインと連動し、ブラジルの縦パスをカット。中盤のスライドも素早く、ボールロスト後の切り替えが早くなりました。これにより、攻守の切り替えで日本が優位に立ちます。

試合のテンポコントロールの巧妙さ

試合全体で特筆すべきは、日本がテンポを自在に操るようになったことです。前半は耐える時間、後半はボールを動かして主導権を握る時間と、明確に“流れ”を分けていました。強豪ブラジル相手に、このリズムの使い分けができたことが最大の進化と言えるでしょう。

前半の課題：ブラジルのハイプレスと日本のビルドアップ

ブラジルの前線からの圧力

ブラジルは前線3人（マルティネリ、ＦＷ、リチャーリソン）が連動して日本のCBにプレスをかけました。GKからのビルドアップを封じる意図があり、特に中村がボールを持つと、サイドを切りながら中へ追い込む守備を展開。この徹底したプレッシングに日本は序盤混乱しました。

日本が抱えたビルドアップの問題

日本の課題は、アンカー鎌田へのパスコースが限定されたことでした。ブラジルの中盤が縦のパスを遮断し、GKザイオンからのフィードも精度を欠いたため、ビルドアップが詰まる場面が続きました。両ウイングバッグ（堂安・中村）が高く上がりすぎて、逆に中盤が孤立する悪循環も見られました。

中盤の位置取りのずれ

前半は南野が高すぎる位置を取っており、鎌田や佐野海舟との距離が広がっていました。結果的にセカンドボールを拾えず、ブラジルに押し込まれる展開が続いたのです。この距離感の修正が後半への鍵となりました。

ウイングバックの役割とリスク

ブラジルのウイング陣はスピードがあり、特にマルティネリの縦突破に苦しみました。中村が前に出た瞬間を狙われ、背後を突かれての失点も生まれています。守備時にはウイングバックが絞りすぎず、ラインを維持する意識が重要だと改めて示された場面でした。

前半終了時点での修正ポイント

ハーフタイムには、森保監督が「中盤の距離感を詰めること」「ボール保持よりも縦の速さを意識すること」を指示。後半の戦術転換がここから始まります。

後半の変化：システム変更と流れを変えた交代策

3-2-4-1から4-3-3への変化

後半、日本はシステムを微調整。南野をインサイドハーフに下げ、鎌田・佐野海舟と並べて“3枚の中盤”にしました。これにより、数的優位を作りながらビルドアップが安定。ブラジルのプレスを回避しやすくなりました。

南野拓実のポジショニングの妙

南野は守備時には中盤に下がり、攻撃時には前線へ飛び出す“可変型のIH”として機能。52分の得点はその動きが生んだもので、右サイドからのクロスに対して絶妙にディフェンスラインの裏を取ってゴールを決めました。

中村敬斗がもたらした推進力

中村は左サイドで起点となり、ドリブルとシュートでリズムを変えました。彼の仕掛けが相手の守備を崩し、60分の同点弾につながりました。戦術的には「左ウイングを高く保つ」ことで、ブラジルの守備を横に広げた点が大きな効果を生みました。

上田綺世の決定力と前線プレス

決勝点を決めた上田は、前線でのプレスでも存在感を発揮。ボールを失ってもすぐに守備に戻り、ブラジルのビルドアップを阻止しました。彼のポジショニングとタイミングが日本の攻撃を活性化させました。

森保監督の采配が的中した瞬間

選手交代のタイミングが絶妙でした。攻撃カードを早めに切ることで、流れを完全に日本側へ引き寄せました。戦術だけでなく、心理的にも“勝負をかけた采配”が功を奏した瞬間でした。

守備面の進化：コンパクトなブロックと連動性

中盤のスライドのスピード

後半、日本は中盤のスライドが非常に速く、ブラジルのサイドチェンジにも対応できていました。鎌田と佐野海舟の連動が完璧で、縦パスを入れさせない守備が徹底されていました。

最終ラインの統率とカバーリング

鈴木と谷口のコンビは冷静で、裏へのボールに対しても1人が寄せ、1人がカバーという理想的な対応を見せました。ラインを下げすぎず、オフサイドを誘う場面も増えました。

鈴木淳之介のセービング分析

南野がMVPに推した鈴木淳之介のセービングも光りました。特に終盤のマルティネリのシュートを反応で止めた場面は試合の流れを決定づけました。守備陣の連携とGKの冷静さが勝利を支えました。

ブラジルの強力アタッカーへの対応

ブラジルの個人技を封じるため、日本は1対1よりも「数的優位で囲む」戦術を徹底しました。これにより、相手のリズムを分断し、フラストレーションを溜めさせることに成功しました。

“守って勝つ”日本代表への進化

この試合では「攻撃で魅せる日本」から「守備で耐え、勝ち切る日本」への成長が見られました。戦術理解度とチーム連動性の高さが世界基準に近づいたと言えるでしょう。

今後への展望：世界トップレベルへの布石

ブラジル撃破が意味するもの

日本がブラジルを倒したことは、偶然ではありません。チームとしての戦術完成度が個人技を上回った結果です。もはや「善戦する国」ではなく「勝ちに行ける国」になったという象徴的な勝利でした。

新世代選手たちの存在感

中村敬斗、鈴木淳之介といった新世代が、堂々とブラジル相手に戦いました。ベテランと若手の融合が理想的に進んでおり、チームの世代交代がポジティブに機能しています。

攻守のバランス強化

今後の課題は、守備の安定を維持しながら、得点力をさらに高めること。南野・上田・久保建英の連携が深まれば、より多彩な攻撃が可能になるでしょう。

世界と戦うための課題

強豪国相手には依然として“立ち上がりの弱さ”や“球際の甘さ”が残ります。これを修正できれば、W杯でベスト8以上も現実的です。

2026年W杯に向けた希望と現実

この勝利は通過点にすぎません。しかし、ブラジル撃破という成果は、日本サッカーが世界に本格的に肩を並べる第一歩となりました。技術、戦術、精神力のすべてが噛み合った“未来を感じる勝利”だったのです。

まとめ

日本代表の3-2勝利は、戦術的な修正と個人の能力、そしてチーム一体の意識が融合した結果でした。ブラジル相手に真っ向から渡り合い、内容でも上回ったこの試合は、歴史的な勝利であると同時に「次の時代の日本代表の姿」を示すものでした。世界との差を縮めるどころか、並びつつあることを実感させてくれた夜でした。